漢方ブログ

#18 痛みは、カラダの「渋滞情報」

─ 関節がこわばる春に知っておきたい、”水はけ”のはなし

朝、布団から起き上がるとき。階段をのぼるとき。しゃがんで靴ひもを結ぶとき。──ふとした動作で、膝や腰が「ギシッ」と声を上げる瞬間、ありませんか。

冬の間に縮こまっていたカラダが、春の陽気に誘われて動き出そうとする季節。それなのに、関節がついてこない。重い。なんだかむくむ。夜中にトイレに起きる回数も増えた気がする。

これ、実は「痛い場所が壊れている」のではなく、カラダの中で”渋滞”が起きているサインかもしれません。

今日は、そんな春の関節のこわばりやむくみを、漢方の「水の巡り」という視点からお話ししたいと思います。

「壊れ」ではなく「渋滞」

関節が痛い。そう聞くと、多くの方が「骨がすり減ったのかな」「軟骨が減ったのかな」と心配されます。もちろん、そうしたケースもあります。でも、漢方の世界では、もう一つの大切な視点があるんです。

それは「不通則痛(ふつうそくつう)」── 通じなければ、すなわち痛む、という考え方。

つまり、関節そのものが壊れたから痛いのではなく、そこに届くはずの栄養や水分の「流れ」が止まっているから、カラダが悲鳴を上げているという見方です。

道路で考えてみてください。事故が起きて道が壊れたから渋滞するのか。それとも、車が多すぎて渋滞しているうちに、道まで傷んでしまうのか。漢方が最初に見つめるのは、その「渋滞」の方なんです。

むくみが引いたら、膝も軽くなった

私がご相談を受けた中に、こんな方がいらっしゃいました。40代の女性で、立ち仕事が続いたあと、足のむくみがひどくなり、やがてふくらはぎが痛み出し、膝や腰にまで広がってしまったのです。夜中のトイレも増え、朝起きると顔もパンパン。

この方の場合、レントゲンで骨に異常があったわけではありません。カラダの中で”水の渋滞”が起きていたのです。

漢方で水の巡りを整えるお手伝いをしたところ、1週間ほどでむくみと痛みが和らぎ始めました。夜中に6回起きていたのが1回に。4週間後には、関節の痛みも気にならないとのこと。2ヶ月後には、10年来の肩こりまで軽くなったとおっしゃっていました。

もちろん、すべての方が同じ経過をたどるわけではありませんし、これは体質や状態によっても変わります。でも「痛い場所」だけでなく「カラダ全体の巡り」に目を向けると、思いがけないところまで変化が広がることがある── それが漢方のおもしろさだと、私は感じています。

滑(なめ)らかの漢字に隠された、水と骨の物語

「滑」という字をよく見てください。左に「水(さんずい)」、右に「骨」。滑らかに動くためには、骨に水が注がれていることが必要だよ── と、漢字そのものが教えてくれているんです。

東洋医学の古典にも「液は骨に注がれ、関節を利す」という言葉が残っています。関節に適切な潤いが届いて初めて、私たちのカラダは滑らかに動ける。この考え方は2000年以上前から伝えられてきました。

現代医学でも、関節液(滑液)が潤滑油のように働いていることが知られていますよね。古典の知恵と現代の知見が、静かに手を結んでいるところが、なんだか嬉しくなります。

そして興味深いのは、東洋医学では関節を「腎(じん)」と深く結びつけて考えること。腎はカラダの土台であり、水を司る場所です。土台がしっかりしているからこそ、その先の動きが生まれる。関節は「動くためにある場所」でありながら、自分自身は「どっしり固定して支える場所」── まるで腎そのもののような存在なんです。

雪解けのように、カラダの水も動き出す春

春は、冬の間にため込んだものが動き始める季節です。雪解け水が山を下るように、カラダの中でも、溜まっていた水分が一気に動き出そうとします。

でも、巡りの力が追いつかないと、水は動き出す代わりに「あふれる」方向へ向かいます。足がむくむ、朝こわばる、なんだか重だるい── それは梅雨の話ではなく、実は今、春のうちから始まっていることが多いんです。

梅雨になってから「むくみがひどくて」とご相談に来られる方の多くが、振り返ると春先から兆候があったとおっしゃいます。

“カラダの水はけ”を整えるなら、蒸し暑くなる前に。

関節は”使わない”と錆びる

ここで、ちょっと意外な話をさせてください。

関節は「動くためにある場所」です。ところが現代の暮らしは、その関節をあまり動かさない方向に進んでいます。デスクワーク、車移動、エレベーター。便利さの代わりに、私たちは「巡りの力」を少しずつ手放してきたのかもしれません。

東洋医学では、関節は「くびれ」のある場所だと考えます。くびれがあるということは、気血や水分が滞りやすい場所でもある。でも同時に、動かすことでポンプのように流れを生む場所でもあるんです。

つまり、動かさないことで渋滞が起き、渋滞が起きることでさらに動かしにくくなる── この悪循環こそが、多くの方が気づかないうちに抱えている、巡りの”静かな敵”です。

温める・動かす・通す── カラダの交差点をひらく漢方の知恵

私は「関節はカラダの交差点」だと思っています。いろんな流れが集まり、分かれ、また合流する場所。だからこそ、渋滞が起きやすいけれど、流れが通れば一気にカラダ全体が軽くなる。

漢方では、この交差点の渋滞を解消するために、三つの方向からアプローチします。

一つ目は「温める」こと。冷えると水は重くなり、動きにくくなります。カラダをじんわり温めて、水が軽やかに動ける状態をつくる。

二つ目は「動かす」こと。停滞しているものに勢いをつけて、滞りを押し流す。漢方の生薬の中には、このベルトコンベアのような役目を果たすものがあります。

三つ目は「通す」こと。細い道の詰まりを取って、流れの道筋をつける。関節のような「くびれ」のある場所には、この「通す」力がとても大切です。

この三つが揃ったとき、カラダの交差点は再び開かれます。そして渋滞の先にいた細胞たちに、ようやく栄養と温もりが届くんです。

“歩くのがこわい”が、”歩くのが楽しい”に変わるまで

千幸堂にいらっしゃる方の中にも、春先の関節の違和感やむくみのご相談は少なくありません。

ある50代の女性は、毎年春になると膝がこわばり、階段が怖くなるとおっしゃっていました。「年だからしょうがない」と諦めかけていたそうです。でもお話を伺ってみると、冷え性で、夜間のトイレも多く、足首のむくみもある。──まさに「水の巡り」が滞っているサインでした。

漢方と生活の工夫を組み合わせてお手伝いしたところ、ひと月ほどで「階段を降りるのが怖くなくなった」とのこと。春のお花見には、ご主人と一緒に長い距離を歩けたそうで、「歩くのが楽しいって、こういうことだったんですね」と笑顔で話してくださいました。

個人の感想ですし、効果には個人差があります。でも、痛みの向こう側にある「したいこと」を取り戻すお手伝いができたとき、この仕事をしていてよかったなと、心から思います。

カラダの春じたく、三つの小さな一歩

大きなことをいきなり始めなくて大丈夫です。まずは、こんな小さなことから試してみてください。

一歩め:足首をくるくる回す。 朝、布団の中で足首を10回ずつ回すだけ。関節を動かすことで、ポンプが動き始めます。

二歩め:温かいものを一杯、朝いちばんに。 白湯でも、温かいお茶でも。内側からじんわり温めることで、水の巡りにスイッチが入ります。

三歩め:気になったら、相談する。 むくみや関節のこわばりが気になったら、「年のせいかな」で終わらせないでください。それはカラダからの「渋滞情報」です。漢方の視点から、あなたの巡りの状態を一緒に見ていくことができます。

千幸堂では、お一人おひとりのカラダの声を聴きながら、漢方や養生のご提案をしています。ちょっとしたことでも、どうぞお気軽にお声がけくださいね。


漢方の世界に「陰陽は一体である」という言葉があります。冷えと温もり、停滞と流れ、痛みと回復──これらは別々のものではなく、いつもペアで存在しているんです。

今、カラダが重たいと感じているなら、それは「軽やかに動きたい」というもう一つの自分がいるということ。こわばりの中に、しなやかさの種が眠っているということ。

新しい季節に向かうあなたのカラダが、滑らかに、軽やかに動けますように。

つらい時も、元気な時も、千幸堂はいつもそばにいます。

少しでも安心していただけたら、嬉しく思います。

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